
消費税はすべての法人に納付義務があるわけではありません。
資本金が1,000万円未満の法人であれば、課税売上高が一定を超えた場合に翌々事業年度から納付義務が発生する仕組みです。
また、納付税額を計算する方法も複数あり、売上規模によっては好きな方法を選択できます。
このように、消費税は前提となるルールが多いため、効果的な節税対策のためにはそれらの仕組みをしっかり理解する必要があります。
今回は消費税の基本事項を解説した上で、法人向けの消費税節税テクニックを紹介します。
以下の記事では法人税の節税対策について詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
CONTENTS
節税の前に|消費税に関する基本事項

節税テクニックの紹介をする前に、まずは消費税に関する基本事項を解説します。
法人が消費税の課税事業者になる条件
最初に紹介したように、消費税は必ずしも納付義務が発生するわけではありません。
消費税の納付義務は基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた時に発生します。
課税期間とは前々事業年度を意味します。
すなわち課税売上高が1,000万円を超えた年の翌々事業年度から消費税の課税事業者になるイメージです。
また、特定期間の課税売上高が1,000万円超の場合も消費税の課税事業者になります。
法人の特定期間は、その事業年度の前事業年度開始の日から6ヶ月間です。
事業年度が4月1日から翌年3月31日の法人の場合、前事業年度の4月1日から9月30日が特定期間となります。
ただし、特定期間における1,000万円超の判定は、課税売上高ではなく給与支払額を用いることも可能です。
特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与支払額が1,000万円以下であれば消費税の免税要件を満たすとみなされます。
【例外】課税売上高1,000万円以下でも課税事業者になるケース
法人の場合、消費税の免税事業者となり得るのはその年の資本金が1,000万円未満の場合のみです。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、その年の開始の日における資本金の額が1,000万円以上の場合は消費税の課税事業者になります。
納付税額の計算方法
納付税額の計算方法は原則課税と簡易課税の2種類です。
原則課税とは、売上げに係る消費税額から仕入れにかかる消費税を引いた額を納付税額とする方法です。
特に手続きをしない場合、消費税の計算方法として自動的に原則課税が適用されます。
簡易課税とは、売上に係る消費税額にみなし仕入率を乗じた額を、仕入れに係る消費税額とみなして納付税額を計算する方法です。
計算に用いるみなし仕入率は事業区分ごとに設定されています。
簡易課税制度は以下2つの要件を満たす場合に適用を受けられます。
- ・基準期間における課税売上高が5,000万円以下である。
- ・期日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出する。
売上規模が比較的小さめの事業者が選べる方法です。
法人の消費税節税テクニック

法人の消費税節税テクニックを5つ紹介します。
簡易課税と原則課税で有利な方を選ぶ
簡易課税の要件を満たしている場合、簡易課税と原則課税で有利な方を選ぶことが大切です。
簡易課税と原則課税では納付税額の計算方法が全く異なります。
同じ会社でも、簡易課税と原則課税どちらで計算するかによって納付税額が変わるのです。
今回は3つの例で、原則課税の場合・簡易課税の場合それぞれの消費税額を比較します。
例1
- ・小売業(第2種事業 みなし仕入率80%)
- ・売上に係る消費税額50万円
- ・仕入にかかる消費税額35万円
原則課税では単純に売上に係る消費税額から仕入にかかる消費税額を控除するだけです。
例1の条件で原則課税を用いると、納付税額は以下のようになります。
- 50万円-35万円=15万円
原則課税では、売上に係る消費税額にみなし仕入率を乗じた額を仕入に係る消費税額とします。
例1の条件で簡易課税を用いた場合の納付税額は以下の通りです。
- 50万円-(50万円×80%)=10万円
例1の場合は簡易課税の方が納付税額を抑えられます。
例2
- ・飲食店(第4種事業 みなし仕入率60%)
- ・売上に係る消費税額50万円
- ・仕入にかかる消費税額35万円
業種以外は例1と全く同じ条件です。
原則課税で計算した場合、納付税額は例1と同じく15万円となります。
続いて簡易課税で計算します。
例2は飲食店で第4種事業に該当し、計算に用いるみなし仕入率は60%です。
計算式は以下のようになります。
- 50万円-(50万円×60%)=20万円
例1と違い、例2は簡易課税よりも原則課税の方が納付税額を抑えられるとわかります。
例3
- ・飲食店(第4種事業 みなし仕入率60%)
- ・売上に係る消費税額50万円
- ・仕入にかかる消費税額20万円
仕入れに係る消費税額以外は例2と同じです。
原則課税の場合、納付税額は以下のようになります。
- 50万円-20万円=30万円
簡易課税における納付税額は例2と同様に20万円です。
例3の条件では、原則課税よりも簡易課税の方が納付税額を抑えられました。
3つの例からわかるように、少し条件が変わるだけで簡易課税と原則課税のどちらが有利になるかは異なります。
原則課税では、売上に対する仕入・経費の割合が大きいほど納付税額が安く済みます。
一方で簡易課税の場合、仕入れに係る消費税額が実際にいくらであったかは関係ありません。
仕入・経費の割合が小さい場合、簡易課税の方が有利な可能性が高いです。
消費税節税は、簡易課税と原則課税のうち有利な方を選ぶことが大前提となります。
どちらが良いかはケースによって異なるため、シミュレーションをした上での判断が必要です。
収入印紙を金券ショップで購入する
原則課税(実際にかかった仕入に係る消費税額を使う計算方法)の場合に実施できる方法です。
収入印紙を金券ショップで購入することで仕入に係る消費税額が増えるため節税につながります。
消費税はすべての取引に課せられるわけではなく、税の性質に合わないという理由から消費税の対象外となる取引が存在します。
そのうちの1つが「日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡」です。
つまり、郵便局で収入印紙を購入した場合は非課税取引となります。
一方、収入印紙を金券ショップで購入した場合は前述の条件を満たさないため、非課税取引に該当しません。
消費税の課税取引として扱うため仕入に係る消費税額が増え、納付税額を抑えられる仕組みです。
寄付は金銭ではなく物で行う
原則課税の場合に実施できる方法です。
原則として、寄付金には消費税がかかりません。
しかし、寄付を目的に物を購入した場合、商品の購入費には消費税が課税されるため仕入れに係る消費税額が発生します。
そのため、寄付のために支出する金額そのものが同じでも、物を寄付する場合の方が負担を抑えられます。
要件を満たす寄付金や協賛金を広告宣伝費として計上する
原則課税の場合に実施できる方法です。
寄付金や協賛金であっても、寄付によって自社の名前やブランド名が不特定多数に触れる場合は広告宣伝費として計上できます。
広告宣伝費は消費税の課税取引となるため、仕入に係る消費税額を増やすことができ、節税に効果的です。
広告宣伝費として計上できる寄付金・協賛金の例を紹介します。
- ・お祭りで寄付金を払い、お祭りの提灯に自社の名前を載せてもらう
- ・イベントや大会の協賛金を支払い、協賛サポーターとして企業名が掲載される
設備投資や高額の支出を伴う取引をする
売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を引いた額がマイナスの場合、消費税の還付を受けられます。
設備投資や高額の支出を行うという節税対策は、基本的には原則課税の場合に実施できる方法です。
ただし、簡易課税の適用事業者も原則課税に切り替えればこのテクニックを活用できます。
還付を受けるため、高額の支出が発生するタイミングに合わせて原則課税に切り替えるのも1つの手段です。
ただし、簡易課税を選択してから2年が経過していない場合は原則課税への切り替えができません。
また、簡易課税から原則課税に切り替えるには、対象の課税期間の前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出が必要です。
まとめ
消費税節税の基本は、仕入に係る消費税額を増やすことです。
納付税額を最小限に抑えるためには、原則課税と簡易課税のうち自社に有利な方を選ぶ必要があります。
原則課税を選ぶ場合、本来は非課税取引に該当する支出について、課税対象になるようなテクニックを活用することが大切です。
本来は消費税がかからない取引でも、ちょっとした工夫で課税取引として計上できるケースは多く存在します。
なお、消費税の節税テクニックは高度な知識を必要とするものが多く、専門知識のない人が正確に行うのは容易ではありません。
消費税の効果的かつ確実な節税を行うためにも、専門家である税理士に相談するのが安心です。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士