
国民年金保険料の追納とは、免除・猶予された国民年金保険料を後から納付する行為です。
国民年金に追納の義務はありませんが、追納によって、将来の年金受給額が増える・追納した年に節税効果を得られるというメリットがあります。
支出を伴うため自身の経済状況を考慮した上で判断する必要がありますが、可能であれば追納するのがおすすめします。
ただし、メリットだけでなく注意点の確認も事前に必要です。
今回は国民年金保険料の追納について、概要やメリット・注意点を詳しく解説します。
なお、公的年金(老齢年金)は課税対象です。年金にかかる所得税については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
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国民年金保険料の追納の概要

はじめに、国民年金保険料の追納の概要を解説します。
【前提】国民年金とは
国民年金保険料の追納について詳しく紹介する前に、まずは国民年金の確認です。
前提として、年金には国民年金と厚生年金の2種類が存在します。
国民年金は20歳以上60歳未満の日本国民全員に納付義務がある年金、厚生年金は会社員や公務員が加入する年金です。
厚生年金の対象となる人は、国民年金の第2号被保険者に該当します。
会社員や公務員の月々の給与からは厚生年金保険料が天引きされていますが、天引きされている年金保険料は国民年金を含む金額です。
つまり厚生年金の対象者は、実際には厚生年金と国民年金の両方に加入しているのです。
厚生年金に加入すると、年金の受給時に国民年金による老齢基礎年金に老齢厚生年金が上乗せされるイメージとなります。
前述のように、厚生年金の加入者である第2号被保険者は年金保険料が毎月天引きされるため、自分で納付する必要がありません。
それ以外の人は自分で国民年金保険料を納める必要があります。
国民年金保険料の追納とは
追納とは免除・猶予を受けた保険料を後から納付する行為です。
国民年金保険料の追納とは、免除・猶予された国民年金保険料を後から納付することを意味します。
義務として設定されているわけではないため、追納するか否かは被保険者の任意となります。
国民年金保険料の免除・猶予制度とは
国民年金保険料の免除・猶予制度とは、文字通り年金保険料の支払いの免除や猶予を受けられる仕組みです。
国民年金保険料は特定の条件を満たす場合に免除や納付猶予の対象になります。
免除・猶予制度の例を紹介します。
- 法定免除
- 障害基礎年金の受給者や生活保護受給者が受けられる免除制度です。
- 申請免除
- 前年の所得が一定以下の場合に適用される免除制度です。免除申請が受理された場合に受けられます。
- 失業等による特例免除
- 会社の倒産や退職によって失業した人が受けられる制度です。
- 学生納付特例制度
- 20歳以上の学生が受けられる特例制度です。在学期間中の保険料の納付が猶予されます。
- 猶予された期間は年金受給に必要な加入期間としては扱われるものの、老齢基礎年金の年金額へは反映されません。
- 保険料納付猶予制度
- 前年所得が一定以下で申請が受理された場合に猶予を受けられる制度です。
国民年金保険料を追納するメリット

すでに紹介したように、免除や猶予を受けた国民年金保険料の追納義務はありません。
しかし、国民年金保険料の追納には2つの大きなメリットがあります。そのため、可能であれば追納するのがおすすめです。
この章では国民年金保険料を追納するメリットを詳しく解説します。
将来の年金受給額が増える
国民年金保険料を追納する大きなメリットが、将来の年金受給額が増えることです。
前提として、国民年金保険料の免除や納付猶予を受けた期間がある場合、国民年金保険料を全額納付した場合よりも年金額が低額になります。
免除や納付猶予制度を利用した場合、その制度の承認を受けていた期間の年金支給額は、全額納付した場合と比べて以下のようになります。
- 全額免除:2分の1
- 4分の3免除:8分の5
- 半額免除:8分の6
- 4分の1免除:8分の7
- 納付猶予制度:追納しなければ猶予を受けていた期間分の支給は無
国民年金保険料の追納をすれば、老齢基礎年金の受給額を満額に近づけられます。
老齢基礎年金は非常に重要な収入源です。将来への備えを用意するためにも、可能であれば国民年金保険料の追納をするのが良いでしょう。
追納した年には節税効果を得られる
国民年金保険料の追納によるもう1つのメリットが、追納した年に節税効果を得られる点です。
追納で支払った年金保険料は、社会保険料控除の対象になります。
社会保険料控除とは、納税者自身または事故と生計を一にする配偶者や親族の社会保険料を払った場合に受けられる所得控除です。
社会保険料控除は、もともとその年に支払い義務がある社会保険料だけでなく、追納によって納付した分も対象になります。
追納によって所得控除の対象額が増えて所得額が抑えられるため、節税につながります。
なお、国民年金保険料の追納によって節税効果を得られる税金は、所得税と住民税(所得割)の2種類です。
国民年金の追納のやり方

国民年金保険料を追納する際の手続きについて説明します。追納の申請書類は、次の2つの方法で作成できます。
日本年金機構ホームページから書類を作成する
- 1. 日本年金機構のホームページにアクセスし、「国民年金関係届書・申請書一覧」ページを開く
- 2. 一覧から「国民年金保険料追納申込書」を選択し、ダウンロードする
- 3. ダウンロードした申込書を印刷し、必要事項を記入
- 4. 記入済みの申込書を最寄りの年金事務所へ郵送、または直接持参
ねんきんネットから書類を作成する
- 1. 「ねんきんネット」にログインし、追納申込書の作成画面を開く
- 2. 画面の案内に従い、必要事項を入力
- 3. 入力内容を確認し、印刷用のファイルをダウンロード
- 4. ダウンロードした申込書を印刷し、必要に応じて修正や署名・捺印を行う
- 5. 記入済みの申込書を最寄りの年金事務所へ郵送、または直接持参
申請の際は、マイナンバーの提示が必要
追納の申請時には、マイナンバーの提示が求められます。
年金事務所へ直接申請に行く場合、マイナンバーカードがあれば、ほかの身元確認書類は不要です。 一方、マイナンバーカードを持っていない場合は、以下の書類を準備する必要があります。
- ・マイナンバーが確認できる書類(通知カードやマイナンバーが記載された住民票のコピー)
- ・身元確認書類(運転免許証、パスポートなど)
郵送で申請する場合は、マイナンバーカードの表裏コピー、または上記のマイナンバー確認書類と身元確認書類のコピーを同封してください。
国民年金を追納した場合、年末調整が必要

年末調整とは、毎月の給与から源泉徴収されている所得税を、その年の最後の給与で精算する手続きです。過剰に徴収されていた場合は還付が受けられ、不足している場合は追加徴収が行われます。
所得税の計算では、課税対象となる金額から差し引ける「控除」がいくつかあります。例えば、給与所得者全員に適用される「基礎控除」、扶養家族の有無に応じた「扶養控除」などが代表的です。
その中でも「保険料控除」は重要な控除のひとつで、生命保険料・地震保険料・個人年金保険料などの支払額に応じた控除が受けられます。社会保険料も対象となり、給与から差し引かれている健康保険料や介護保険料、厚生年金保険料などが全額控除されます。
追納した国民年金保険料も、年末調整で申告することで控除の対象となります。
そのため、追納後に年末調整をする場合としない場合で、以下のような違いが生じます。
国民年金保険料追納後に年末調整した場合
国民年金保険料を追納した場合、年末調整で「社会保険料控除」として申告すると、所得税の負担を軽減できます。
国民年金保険料は、支払った金額の全額が控除の対象となります。追納分も同様に全額控除されるため、支払った保険料の分だけ課税所得が減り、その結果、納めるべき所得税の額が少なくなります。
課税所得が減ることで、所得税の負担が抑えられ、手取り額の増加につながる可能性があります。
国民年金保険料追納後に年末調整しなかった場合
国民年金保険料を追納しても年末調整で申告しなければ、支払った分の控除を受けられず、所得税を本来より多く支払うことになります。
追納した国民年金保険料は、毎月の給与から天引きされている健康保険料などと同じ「社会保険料控除」の対象です。ただし、健康保険料などは自動的に控除されるのに対し、追納した国民年金保険料は勤務先が把握できないため、申告しない限り控除が適用されません。
年末調整で申告しないと、本来減額できるはずの課税所得がそのままとなり、余分な税金を支払うことになってしまうため、忘れずに手続きを行いましょう。
国民年金追納分の年末調整のやり方

国民年金保険料を追納した場合、年末調整での申告は以下の3つの手順で行います。
- 1. 国民年金保険料控除証明書の受取
2. 保険料控除申告書の記入
3. 勤務先への提出
それぞれ詳しく解説します。
国民年金保険料控除証明書の受取
国民年金保険料の追納分を年末調整で申告するためには、「国民年金保険料控除証明書」が必要です。この証明書は、国民年金保険料を支払ったことを証明するもので、年末調整の際には保険料控除申告書に添付して提出する必要があります。
国民年金保険料控除証明書は、日本年金機構から郵送されます。送付時期は毎年2月と11月で、以下の内容が記載されています。
- 2月送付:前年10月1日から12月31日までの合計額
- 11月送付:1月1日から9月30日までの合計額
注意点として、毎年10月以降に追納した場合は、納付時に受け取った領収書を控除証明書の代わりとして使用できます。領収書は大切に保管し、処分しないようにしましょう。
保険料控除申告書の記入
追納した国民年金保険料の控除は、「保険料控除申告書」に記入して提出することで申告できます。この申告書は、生命保険や地震保険、個人年金など、保険料を支払った分の控除を申告するための書類で、国民年金保険料や国民健康保険料を家族に代わって支払った場合にも使用されます。
保険料控除申告書にはその年に支払った国民年金保険料の追納金額を記入します。国民年金保険料控除証明書や領収書を手元に準備し、金額が正確であることを確認しながら記入しましょう。
勤務先への提出
国民年金保険料控除証明書と保険料控除申告書は、他の年末調整に必要な書類と一緒に勤務先に提出します。提出は指示された期限内に行うことが最善ですが、控除証明書を紛失して再発行を依頼している場合などは、その旨を事前に伝えておくことが大切です。
会社は、年末調整で全従業員の書類を回収し、整理・確認する必要があります。そのため、提出が遅れる場合は、事情を先に説明しておくことで、後の処理負担を軽減することができます。
国民年金追納分の年末調整を忘れた場合
もし、追納した国民年金保険料の年末調整を忘れてしまったり、国民年金保険料控除証明書の再発行が間に合わなかった場合でも、確定申告を行うことで年末調整の代わりとして控除を受けることができます。
確定申告を通じて、追納した国民年金保険料の控除を申請することが可能ですので、年末調整を逃してしまった場合は、確定申告を検討しましょう。
国民年金保険料の追納に関する注意点

最後に、国民年金保険料の追納に関する注意点を紹介します。
追納は免除・猶予から2年以内がお得
国民年金保険料の追納は免除・猶予から2年以内にするのがお得です。免除・猶予を受けた翌年度から起算して3年度目以降に追納すると、保険料に対して経過期間に応じた「加算額」が上乗せされるためです。
例えば、2025年度(現在の年度)に追納する場合:
2023年度・2024年度の免除・猶予分には加算額はかかりません。
2022年度以前の分には加算額が上乗せされます。
加算額はひと月あたり数十円〜数百円で、年数が経つほど高くなります。したがって、経済的に可能であれば、免除・猶予を受けてから2年以内に追納することが最もお得な選択肢となります。
追納には事前の申請が必要
国民年金保険料の追納は、自分の好きなタイミングでできるわけではありません。追納をするには年金事務所での申し込みが必要です。
追納の申請は、年金事務所の窓口もしくは郵送で行えます。
申請に必要な「国民年金保険料追納申込書」は日本年金機構の公式サイトでダウンロード可能です。
「ねんきんネット」で追納申込書を作成することもできます。作成した追納申込書を印刷し、窓口または郵送で提出します。
なお、申請にはマイナンバーカード(個人番号カード)が必要です。
マイナンバーカードを持っていない場合、以下の2つを用意する必要があります。
- ・通知カードや個人番号の表示がある住民票コピー等、マイナンバーが確認できる書類
- ・運転免許証、パスポート、在留カード等の身元確認書類
郵送で申請する場合、上記の本人確認書類のコピーを添付する必要があります。
マイナンバーカードは両面のコピーが必要なためご注意ください。
申請が受理されれば、追納に必要な納付書を受け取れます。
追納できるのは承認された月から10年以内の免除等期間分のみ
国民年金保険料の追納ができるのは、追納の申請が承認された月から10年以内の分のみです。
たとえば2024年の1月に追納の承認を受けた場合、追納できるのは2014年1月以降分となります。
仮に免除等期間が2013年10月から2014年12月だった場合、追納できるのは2014年1月~2014年12月分のみです。2013年10月~2013年12月分の追納はできません。
ポイントは、承認された月から10年以内という点です。追納を検討しているのであれば早めに手続きをする必要があります。
節税効果を得るには年末調整または確定申告での作業が必要
国民年金保険料の追納による節税効果を得るには、年末調整または確定申告で手続きが必要です。
追納分の社会保険料控除が自動で適用されるわけではありません。
年末調整の場合、以下の作業を行う必要があります。
- 1.社会保険料(国民年金保険料)控除証明書または納付書・領収(納付受託)証書を用意する
- 2.「給与所得者の保険料控除申告書」の「社会保険料控除欄」に、1の書類に記載されている控除額を記入する
- 3.書類を会社に提出する。原則として控除証明書と控除申告書の両方の提出が必要。
確定申告の場合、確定申告書の「社会保険料控除」に金額を記入します。
投資したほうが利益が大きい場合がある
近年、年金支給額が減額されたり、増額されても物価上昇を考慮すると実質的に目減りしている状況です。そのため、保険料を追納しても、実際に受け取る年金額が予想より少なくなる可能性もあります。
こうした状況では、学生納付特例で猶予された国民年金保険料を追納するよりも、その金額を投資に回したほうが将来的に利益が大きくなる場合もあります。ただし、投資には元本割れのリスクも伴うため、慎重に判断することが重要です。
投資を検討する際は、自分が拠出した掛金を自己管理で運用し、老後資金を準備できるiDeCo(個人型確定拠出年金)の利用も選択肢の一つです。iDeCoには税制優遇措置があり、効率的な資産形成が期待できます。
まとめ
国民年金保険料の追納には、将来の年金受給額が増える・追納した年に節税効果を得られるというメリットがあります。
支出を伴うため経済状況を考慮する必要がありますが、可能であれば追納するのがおすすめです。
国民年金保険料の追納をするには、事前に年金事務所へ追納の申請を行う必要があります。
追納できるのは追納が承認された月から10年以内の免除等期間分のみであるため、期間内に申請しましょう。
また、追納による節税効果を得るためには、年末調整または確定申告での手続きが必須です。
国民年金保険料の追納について、本記事が理解の助けになれば幸いです。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士