赤字経営が節税になる?メリットとデメリット、注意点について解説!

2024.02.02

赤字経営とは文字通り、事業活動が赤字の状態を指します。赤字事業とも呼ばれます。

事業活動は基本的に営利目的、つまり利益を出す目的で行うものであり、赤字は好ましいものとはいえません。

しかし、節税のために意図的に赤字状態を作り出す、もしくは赤字経営の状態を上手く活用して節税効果を得るケースもみられます。

 

赤字経営にはメリットとデメリットの両方が存在します。

また、意図的に赤字経営の状態を作り出す行為には注意点もあるため、赤字経営に対する理解は必要不可欠です。

 

今回は赤字経営のメリットやデメリット、注意点について詳しく解説します。

 

以下の記事では事業者におすすめの節税テクニックを紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

 

 

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CONTENTS

赤字経営(赤字事業)とは

赤字経営とは、文字通り事業活動が赤字、つまり利益が出ていない経営状況のことです。

事業が赤字状態ということから、赤字事業とも呼ばれます。

 

事業による利益が出ていない状態は単に赤字と呼ぶのが一般的です。赤字経営も基本的には赤字と同じ意味合いを持ちます。

ただし、赤字と呼ぶ場合は単に利益が出ていない状態を指しますが、「赤字経営」という呼び方の場合、赤字状態を意図的に作り出しているケースもみられます。

とはいえ赤字・赤字経営・赤字事業それぞれに明確な違いはなく、ニュアンス程度と考えて良いでしょう。

赤字経営によるメリット6つ

赤字経営のメリットは、上手くいけば節税効果を得られることです。

赤字経営が節税につながる理由について解説します。

所得部分にかかる税金が発生しない

赤字経営の場合、所得部分にかかる税金が発生しません。

赤字の場合に発生しない税金として、具体的には以下の3つが挙げられます。

所得税

所得税は、文字通り個人の所得に対してかかる税金です。

赤字経営であれば事業所得もゼロとなり、所得税が発生しません。

※事業所得以外の所得がある場合は所得税が発生します。

法人税

法人税は、法人の所得に対してかかる税金です。

会社が赤字であれば、当然法人の所得が課税対象である法人税は発生しません。

法人住民税(法人税割)

法人住民税は、法人税額を基準とする法人税割と、法人の規模によって課税金額が異なる均等割の2つから構成されています。

赤字経営で法人税額が0円であれば、法人住民税の法人税割も発生しません。

翌年以降の黒字と相殺できるため赤字が無駄にならない

個人事業主・法人ともに、青色申告の場合は赤字の繰り越しが可能です。

(法人が繰り越す赤字のことは、繰越欠損金と呼びます)

そして、翌年以降に黒字となった場合、過年度分の繰り越した赤字と黒字を相殺し、その年の所得額を減額できます

たとえばX2年に50万円の赤字が発生し、翌X3年に80万円の黒字となった場合、X3年の課税所得は以下の通りです。

80万円-50万円(X2年から繰り越した赤字)=30万円

所得税や法人税が課されるのは30万円部分だけとなるため、大きな節税効果を得られます。

 

なお、赤字を繰り越せる期間は以下の通りです。

  • ・個人事業主:最長3年間
  • ・法人:最長10年間

赤字の繰り越しを行うためには、毎年確定申告が必要です。

【個人事業主の場合】損益通算ができる

損益通算とは、ある所得の赤字を別の所得の黒字と相殺できる制度です。

以下の所得が損益通算の対象となります。

  • ・事業所得
  • ・不動産所得
  • ・譲渡所得
  • ・山林所得

たとえば、本業がサラリーマンで副業が赤字(事業所得が赤字)の場合、事業所得の赤字を給与所得から差し引くことが可能です。

 

事業が赤字状態であれば損益通算によって課税所得額を抑えられるため、節税につながります。

所得を証明できる

確定申告書の控えは、所得の証明書類として活用できる場合があります。特に、融資を申し込む際には、過去数年分の確定申告書の控えの提出を求められるケースもあります。

赤字であっても確定申告をしないと、所得証明ができる書類が手元に残らないため、提出を求められた際に対応できません。たとえ赤字でも、所得の証明となる書類を確保しておくことが重要です。

なお、2025年1月からは確定申告書等の控えへの収受日付印の押なつが廃止されました。そのため、確定申告書は正本のみを提出することになります。

控えを確実に保管し、提出した年月日を記録・管理しておくことが必要です。

国民健康保険料などが安くなる可能性がある

所得が一定額以下の人は、国民健康保険料(税)の減額を受けられる制度があります。しかし、所得税の確定申告をしないと軽減措置の適用を受けられません。

また、確定申告で赤字申告を行うと、住民税が非課税になる可能性が高くなります。その結果、「非課税証明書」を発行してもらえれば、各種公的サービスの減額などのメリットを受けられるケースもあります。

なお、これらの減税措置は住民税の申告でも適用可能ですが、確定申告を行えば住民税の申告が不要になります。

住民税の申告を個別に行うよりも、確定申告をすることで幅広いメリットが得られるため、確定申告の実施がおすすめです。

源泉徴収で払った所得税の還付金を受け取れる

個人事業主が赤字でも確定申告を行うことで、源泉徴収された所得税の還付を受けられる場合があります。

源泉徴収とは、支払うべき報酬や給与から所得税や復興特別所得税を事前に差し引き、事業者が納税する制度です。具体的には、以下のような報酬が対象となります。

  • ・原稿料
  • ・講演料
  • ・特定の資格を持つ方への報酬

一方で、事業所得が赤字になった場合でも、以下の所得については還付が受けられない可能性があります。

  • ・預金の利子などの所得
  • ・山林所得
  • ・土地・建物の譲渡所得
  • ・株式などの譲渡所得

確定申告書の「所得税および復興特別所得税の源泉徴収税額」欄に源泉徴収額を記載すれば、個人事業主は還付金を受け取ることが可能です。

ただし、取引先には源泉徴収額を記載した書類を発行する義務がないため、自身で管理が必要になります。金額の記入漏れや計算ミスがあると余分に税金を納める可能性があるため、注意が必要です。

 

参考:「No.2030 還付申告」国税庁

赤字経営のデメリット3つ

続いて、赤字経営のデメリットを3つ紹介します。

対外的な信用度が下がる

赤字経営の最も大きなデメリットは、対外的な信用度が下がる点です。

 

事業で赤字が続くと、以下のような印象を与える恐れがあります。

  • ・事業内容に問題がある、事業が上手くいっていない
  • ・十分な料金や報酬を払える余裕がない
  • ・倒産するリスクが高い

このような理由から、新たな取引先やビジネスチャンスが獲得しにくくなってしまうでしょう。

また、人材採用の面でも悪影響を及ぼす恐れがあります。

 

一時的な赤字状態で大きな影響が出る恐れは考えにくいですが、赤字が続くのは注意が必要です。

赤字経営は節税効果が期待できるとはいえ、信用度が下がる要因であるため、長い目で見るとマイナスが大きいといえるでしょう。

融資審査で不利になる恐れがある

赤字経営の状態が続くと、融資審査で不利になる恐れが大きいです。

 

金融機関の融資は審査に通過した場合のみ受けられます。

融資の審査は申込者の返済能力や懸念の有無をチェックするために行うものであり、審査で「問題あり」と判断されてしまうと融資を受けられません。

 

赤字経営の状態は、金融機関の担当者には事業が上手くいっていないように映ります。

そのため、赤字経営では融資審査で不利になる恐れが大きいのです。

 

事業拡大等の多額な資金が必要な場面において、融資は有用な資金調達手段です。

将来的に融資を受ける可能性がある・事業拡大を検討している等の場合、赤字経営はなるべく早めに解消するべきでしょう。

倒産のリスクが高くなる

倒産のリスクが高くなる点も、赤字経営のデメリットの1つです。

 

前提として、赤字経営の場合に必ず倒産するわけではありません。

倒産の主な原因は資金繰りの悪化であり、たとえ黒字状態でも現預金がなければ倒産の恐れがあります。

言い換えれば、赤字経営でも現預金に余裕があれば倒産のリスクは低いです。

 

しかし、赤字状態が続けば収入は低く支出ばかりとなります。

つまり経営が成り立たず、いずれ資金繰りが悪化する可能性があるということです。

 

赤字状態になってすぐに倒産するとは限りませんが、赤字状態が続けば倒産のリスクが高いのは事実でしょう。

赤字の個人事業主が確定申告するときの書類作成方法

個人事業主が赤字を計上した際は、「申告書第四表(損失申告用)」の提出義務が発生します。申告書は二部構成となっており、それぞれ必要事項を記入しなければなりません。

なお、繰越損失がない場合は、申告書第四表(二)の作成は不要です。

【申告書第四表(一)の記入方法】

申告書第四表(一)は、当年度の損失や損益通算を申告するための書類です。記入の際は、以下の点を押さえましょう。

  1. 1. 申告する年度を記入し、「申告書」欄の前に「確定」と明記する
  2. 2. 住所・氏名・フリガナを記入する
  3. 3. 確定申告第一表の所得金額等(1)~(6)の合計と(10)の金額を足す
  4. 4. 算出した金額を「1 損失額又は所得金額」「2 損益の通算」の「66」欄に記入
  5. 5. 山林所得や譲渡所得がある場合は、B~Fの該当箇所に記載
  6. 6. 損益通算を行う場合、「2 損益の通算」欄に算出した金額を記入
  7. 7. 「80」欄に損失の合計金額を記載

【申告書第四表(二)の記入方法】

申告書第四表(二)は、翌年以降に繰り越す損失額を申告するための書類です。

  1. 1. 「3 翌年以後に繰り越す損失額」の「81」欄に金額を記入
  2. 2. 該当する箇所があれば、それぞれの欄に記載
  3. 3. 赤字の金額を記載する際は、金額の前に「△」マークをつける

正しく記入し、損失の繰越控除を活用すれば、翌年以降の節税につながる可能性があります。

 

参考:「申告書第四表(損失申告用)」国税庁

赤字の個人事業主でも使える資金調達方法4選

赤字の状況では資金調達が難しいと感じるかもしれませんが、解決策はあります。事業が赤字でも利用できる資金調達方法をいくつかご紹介します。

【赤字でも利用できる資金調達方法】

  • ・ファクタリング
  • ・リースバック
  • ・不動産担保ローン
  • ・不動産売却

それぞれの方法について詳しく解説します。

ファクタリング

赤字の影響を受けずに資金を調達できる方法として、「ファクタリング」があります。

ファクタリングとは売掛金をファクタリング会社に売却し、資金化できる金融サービスのことです。

ファクタリングを利用する際は審査が必要ですが、審査の焦点は利用者ではなく、売掛先の信用度にあります。そのため、個人事業主が赤字でも利用可能です。

さらに、創業間もない場合や税金の滞納がある場合でも利用できるのが特徴です。

 

【ファクタリングのメリット】

  • ・売掛金の未回収リスクを軽減できる
  • ・最短即日で資金調達が可能
  • ・信用情報に影響しない

ただし、売掛金がないと利用できないため、その点には注意が必要です。

リースバック

赤字の個人事業主でも資金調達可能な方法として、「リースバック」があります。

リースバックとは不動産を売却して資金を得つつ、買主とリース契約を結び、そのまま利用を継続できる仕組みのことです。

この方法を利用すれば、融資を受けることなくまとまった資金を確保できます。

【リースバックのメリット】

  • ・売却してもそのまま使用可能
  • ・将来的に買い戻すこともできる
  • ・売却したことを周囲に知られずに済む

ただし、リース料の支払いが発生することや、売却価格が相場より低くなる可能性があるため、慎重に判断する必要があります。

不動産担保ローン

赤字でも利用可能な資金調達方法として、「不動産担保ローン」があります。

不動産担保ローンとは、自己所有の不動産を担保に提供し、融資を受けるローンのことです。

赤字の有無に関わらず、不動産の価値を基準に融資が決まるため、個人事業主が赤字でも利用可能です。

【不動産担保ローンのメリット】

  • ・低金利で利用できる
  • ・借入限度額が大きい
  • ・長期間にわたる借り入れが可能

ただし、融資額は不動産の評価額に依存するため、一定の価値を持つ不動産を所有していることが前提です。さらに、返済ができなくなると不動産が処分されるリスクがあるため注意が必要です。

不動産売却

不動産売却は、赤字の影響を受けずにまとまった資金を得られる手段の一つです。

売却することで、まとまった資金を一括で確保できるため、赤字の補填やその他の用途に自由に活用できます。

ただし、事業や生活に必要な不動産を売却すると影響が大きいため、慎重に検討することが重要です。

節税対策として赤字事業を行う際の注意

前提として、節税目的で意図的に赤字を作り出す行為はおすすめできません

 

赤字経営のデメリットで挙げたように、赤字状態が長く続くと対外的な信用度が下がる恐れが大きいです。

事業所得にかかる所得税や法人税は発生しませんが、ビジネスチャンスを獲得できる可能性が低くなります。

したがって、赤字経営はトータルではマイナスになると考えられます。

 

また、赤字では事業が成り立たず倒産のリスクも高いです。

前提したように、会社が倒産する原因の多くは、損失の発生そのものではなく資金繰りの悪化です。

つまり、赤字状態であっても手元の現金が十分であれば倒産しないといえます。

しかし赤字状態が続けば事業が成り立たず、いずれ資金繰りも悪化して倒産につながる恐れがあるでしょう。

 

また、意図的に赤字状態にする行為は脱税とみなされる恐れがあります。

脱税とみなされた場合は通常の税金に加えてペナルティの支払いも必要であり、トータルでの納付額が大きくなります。

 

このように赤字状態を意図的に作り出す行為には様々なリスクがあるため、節税目的で赤字状態を作り出すのは避けましょう。

 

とはいえ、結果として赤字になってしまった場合は赤字経営の状態を上手く活用するべきです。

節税対策のために赤字にするのではなく、結果として赤字になった場合に節税対策を行うようにしましょう。

まとめ

赤字経営の場合、事業による所得にかかる税金が発生しません。

また、赤字の繰り越しを行えば翌年以降の黒字と相殺できます。個人事業主であれば、他の所得との損益通算が可能です。

赤字状態を上手く活用することで節税対策につながります。

 

ただし、赤字経営には無視できないデメリットが複数あります。

確かに節税につながる可能性はありますが、将来的にはマイナスになる恐れが大きいです。

節税のために赤字状態を意図的に作る行為はおすすめできません。

 

節税対策のために赤字にするのではなく、結果として赤字になった場合に節税対策を行うようにしましょう。

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吉岡 伸晃

記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士

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