企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が掛金を拠出し、加入者である従業員が年金資産の運用を行う制度です。
所得税や住民税の節税効果がある上、社会保険料を抑える効果も得られます。
運用益が非課税である・受け取り時にも各種控除が適用される点も大きなメリットです。
企業型DCは、同じく拠出年金であるiDeCoと比較される場面も多いです。
似た制度ではありますが相違点も多いため、それぞれの特徴をしっかり押さえる必要があります。
今回は企業型DCの概要や節税効果、iDeCoとの違いについて解説します。
以下の記事では企業型DCのマッチング拠出について解説していますので、ぜひこちらもご覧ください。
CONTENTS
企業型確定拠出年金(企業型DC)の概要
はじめに、企業型確定拠出年金(企業型DC)の概要を紹介します。
※以降の文章では、企業型確定拠出年金を企業型DCと表します。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が掛金を拠出し、加入者である従業員が年金資産の運用を行う制度です。
拠出とは掛金を積み立てる行為を意味します。
企業型DCには、同制度を採用している会社に勤める従業員が自動的に加入するケースと、企業型DCに加入するか従業員が選べるケースの2種類があります。
どちらのパターンであっても、企業型DCそのものの仕組みや従業員が得られるメリットに違いはありません。
企業型確定拠出年金の特徴
企業型DCの特徴として、以下の7つが挙げられます。
- ・掛金の額は基本的に会社側が決める。会社での役職等に応じて決まるケースが多い。
- ・掛金の上限は、他の企業年金がある場合は月27,500円
他の企業年金がない場合は月55,000円 - ・給与の一部が企業型DCの掛金になる。
- たとえば月給30万円の人が2万円の拠出をする場合、給与から2万円が天引きされる。
- ・資産運用をするのは加入者である従業員自身。
- 企業型DCによって資産が増えるかどうかは従業員の手腕次第となる。
- ・拠出は会社側が行うため、拠出時には従業員に手間がかからない。
- ・原則として60歳になったタイミングで受給権を得られる。
- ・積立期間は会社の規定により最長70歳まで。
企業型確定拠出年金によって節税効果が得られる理由
最初に少し触れたように、企業型DCの実施により節税効果を得られます。
企業型DCが節税につながる理由を3つ紹介します。
拠出金は給与や報酬にならないため非課税
企業型DCは、給与の一部が掛金として天引きされ会社が積み立てをするイメージと紹介しました。
そして、企業型DCとして拠出する分、つまり給与から天引きされる分は給与や報酬とは扱われません。
例えば月給30万円の人が企業型DCに毎月2万円の掛金を拠出する場合、給与として扱われるのは28万円となります。
つまり課税対象になるのは月28万円の部分のみです。企業型DCの拠出分である2万円部分は、所得税・住民税・社会保険料の対象外になります。
このように、拠出分がそのまま非課税になるため所得税や住民税の節税につながり、金額によっては社会保険料も安くなるのです。
運用利益が非課税
運用利益が非課税な点も、企業型DCが節税につながる理由です。
一般的な資産運用では運用益に約20%の税金が課されます。資産運用によって利益が発生しても、手元に残るのは80%程度となります。
一方、企業型DCの運用益は前述のように非課税です。
通常の方法で資産運用する場合と違い、税負担が発生しない点が大きなメリットとして挙げられます。
受け取り時には各種控除制度の適用を受けられる
企業型DCによって税金面でのメリットを得られるのは資産運用中だけではありません。
受け取り時には各種控除制度の適用を受けられます。
企業型DCは60歳を過ぎると受け取れます。受け取り方は以下の3パターンです。
- 年金として受け取る
- 5年以上20年以内で年金として受け取る方法です。年金として受け取る場合は雑所得扱いとなり、公的年金等控除の対象となります。
- 一時金として受け取る
- 60歳~70歳の間で受け取る時期を決めて一括で受け取る方法です。一時金として受け取る場合は退職所得として扱われます。
- 退職所得は退職所得控除の対象であり、控除額が大きい点が特徴です。
- 年金と一時金を併用する
- 年金と一時金の両方の受け取り方を行う方法です。
- 年金分は公的年金等控除、一時金分は退職所得控除と、それぞれの所得控除が適用されます。
企業型確定拠出年金による節税シミュレーション
企業型DCの利用によってどれほどの節税効果を得られるのか、具体例を用いて紹介します。
今回用いる条件は以下の通りです。
- ・企業型DC加入時の年齢:30歳
- ・月額給与:40万円
- ・勤務地:東京都
- ・月の掛金:3万円
- ・積み立て終了予定年齢:60歳
※SBI証券が公開している企業型DCの加入効果シミュレーションを使用しました。
まずは税金と社会保険料の軽減額です。
- 社会保険料の軽減額:月4,366円
- 税金の軽減額:月3,975円
- 社会保険料・税金の軽減額合計:月8,341円
税金と社会保険料を合計すると、年間で100,092円の軽減となります。
シミュレーション結果から、企業型DCは大きな節税効果が期待できる制度といえるでしょう。
企業型確定拠出年金とiDeCoの比較
iDeCoは企業型DCと比較される場面が多い制度です。
この章ではiDeCoの概要や、企業型DCとiDeCoの違いについて詳しく解説します。
iDeCoとは
iDeCoは、掛金を加入者本人が拠出し資産運用や資産形成も加入者が行う年金制度です。個人型確定拠出年金とも表現されます。
iDeCoで積み立てた資産は、企業型DCと同じく60歳を過ぎてから受け取れます。
企業型DCと同様に、将来の受取額は運用成果によって増減する仕組みです。また、金融商品は自分で選ぶ必要があります。
本記事で紹介した企業型DCの掛金は、会社での役職等によって決まるケースが多いと紹介しました。
また、掛金の上限額は他の企業年金に加入しているか否かで異なります。
一方、iDeCoの掛金は自分で設定が可能です。
そして、掛金の上限は加入資格に応じて異なります。
- ・国民年金の第1号被保険者(20歳以上60歳未満の自営業者・フリーランスやその家族、学生等)
- 月額6.8万円
- ・国民年金の第2被保険者(会社員や公務員等、厚生年金の被保険者)
- 会社に企業年金がない場合:月額2.3万円
- 企業型DCのみに加入している場合:月額2.0万円
- その他のパターン:月額1.2万円
- ・国民年金の第3号被保険者(厚生年金の被保険者に扶養されている配偶者)
- 月額2.3万円
掛金の下限は月額5,000円で、1,000円単位で設定できます。掛金の額は年1回に限り変更可能です。
また、必要に応じて掛金の拠出を止めることもできます。
受け取り方は企業型DCと同じく以下の3パターンです。
- ・一時金として受け取る
- ・年金として受け取る
- ・一時金と年金を併用する
企業型確定拠出年金とiDeCoの違い
最後に、企業型DCとiDeCoの違いをまとめます。
- 拠出者
- 企業型DCの拠出者は企業、iDeCoは加入者本人です。
- 掛金の上限
- これまで紹介したように、企業型DCとiDeCoでは掛金の上限額が異なります。
- 加入対象者
- 企業型DCは制度を導入している会社に勤める人のみが利用できる制度です。
- iDeCoは誰でも加入できます。ただし、企業型DCのマッチング拠出とiDeCoの併用はできません。
- 積立期間
- iDeCoで積み立てできる期間は65歳までです。
- 企業型DCは会社の決まりによって最長70歳まで積み立てができます。
- 運用にかかる手数料の負担
- 企業型DCは会社、iDeCoは加入者本人が負担します。
なお、マッチング拠出を除き企業型DCとiDeCoの併用が可能です。
企業型DCは会社が掛金を決めるため、自身の希望よりも掛金が少ない可能性があります。
資金に余裕がある人は、企業型DCとiDeCoを併用するのも1つの手段です。
まとめ
企業型DCは会社が掛金を拠出し、加入者である従業員が資産運用を行う確定拠出年金制度です。
掛金として拠出した額は所得税・住民税・社会保険料の対象外であるため、大きな節税効果を得られます。
運用益が非課税であり、受け取り時にも各種控除制度の適用を受けられる点も大きなメリットです。
企業型DCと比較される場面が多いiDeCoは、加入者本人が拠出と資産運用の両方を行います。
企業型DCとiDeCoには様々な違いがあるため、それぞれの特徴を押さえる必要があります。
企業型DCとiDeCoの両方に対する理解を深めた上で、自分に合う方法を選びましょう。
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記事監修
BIZARQ合同会社代表公認会計士